ニュースの概要
朝日新聞が開いたウェビナーは、日本の鉄鋼メーカーが売り出す「グリーンスチール」が、欧州の基準でも環境配慮型の鉄として扱われるのかを主題にしている。日本では、製造時の二酸化炭素削減分を特定の製品に割り当てる方式が広がりつつある。一方の欧州は、国境で炭素の価格を調整する制度や、製品ごとの排出量算定ルールを整えている。同じ「グリーン」という言葉でも、数え方と認める条件が国や地域で異なる。この差が輸出や調達の現場でどう効いてくるのかが、議論の中心にある。
引用元: 「ウェビナー」日本のグリーンスチールは欧州で「グリーン」と認められるのか(朝日新聞)
分析・見解
「グリーン」の定義が日欧でずれている
鉄は、鉄鉱石から酸素を取り除く工程で大量の二酸化炭素を出す。世界の排出量の約7%を占めるともいわれ、削減の優先度が高い素材である。
日本の高炉メーカーは、設備をすぐに入れ替えるのが難しい。そこで、削減できた分を特定の製品へ割り当てて「グリーン」と呼ぶ方式(マスバランス方式=帳簿上で削減量を振り分ける考え方)が広がってきた。実際に鉄が物理的に低炭素かどうかではなく、会計上の割り当てで判断する。
欧州が見ているのは製品ごとの実測値
欧州連合は、国境炭素調整措置(CBAM)で、輸入品の製造時の排出量に応じた負担を求める。2026年からは本格的な課金段階に入った。ここで重視されるのは、製品ごとの排出量をどれだけ正確に裏づけできるかである。
帳簿上の割り当てが、この算定にそのまま認められるとは限らない。電炉で作った低炭素鋼のように、物理的に排出が少ない鉄との扱いの差が出る可能性がある。
先行する電炉・水素還元との温度差
欧州ではスウェーデンの新興企業などが、水素で鉄を還元する方法を実用化に近づけている。ドイツの大手も水素利用への転換に巨額の補助金を受けた。こうした動きは、鉄そのものの排出が物理的に少ない点を売りにする。
日本勢は、水素還元の研究で世界トップクラスの技術を持つ。ただ量産規模の実装は2030年代と見られ、それまでの橋渡しとして割り当て方式を使う構図になっている。橋渡しの期間を、欧州の買い手が許容するかどうかが焦点である。
独自の視点は、認証が価格より先に商流を決めること
多くの議論は、グリーンスチールの価格が何割高いかに集まる。だが実務で先に問題になるのは、買い手が調達先として認めるかという入口の審査である。自動車や家電のメーカーは、自社の排出量の報告に使える鉄しか買いにくい。認証の通りやすさが、価格より前に取引の可否を決めるおそれがある。
今後は、国際的な業界団体の基準づくりで日本の方式がどう扱われるかが分かれ目になる。相互承認が進めば追い風になる。進まなければ、日本の鉄は二つの基準に対応する二重の負担を抱える。
ビジネスへの影響
輸出と調達の両方で、証明書類の整備が急務になる
欧州向けに鉄や鉄を使った製品を出す企業は、排出量の算定根拠を取引先に示す場面が増える。どの方式で削減量を数えたのか、第三者が確認した書類があるのかを、今のうちに整理しておきたい。
調達側の企業も同様である。仕入れた鉄を「グリーン」として自社の報告に載せる場合、欧州の基準で通用するかを確認する必要がある。社内の報告用と対外説明用で、数え方が食い違わないようにしたい。
小さな会社でも、今日から始められる三つの備え
一つ目は、主要な鋼材の仕入先に排出量データを問い合わせることである。二つ目は、見積書の段階で、通常品とグリーン品の価格差と認証方式を並べて記録することである。三つ目は、取引先から求められそうな項目をひな形にして、早めに回答できる体制を作ることである。
鉄を直接使わない会社でも、取引先経由で影響を受ける。サプライチェーン全体の排出量の報告(Scope3=取引先を含む排出量)が広がる流れの中で、素材の説明責任は一段重くなると考えておくのが無難である。
