環境表示と、ESG開示は、同じ土台の上にある
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制度の適用時期は金融庁などの公表資料で確認できた内容に限っています。今後の制度整備で変更されうるため、最新の状況は一次資料でご確認ください。
製品やサービスの環境表示と、企業全体のサステナビリティ開示は、別の制度に見えます。しかし、どちらも「環境に関する主張を、根拠とともに示す」という点で共通しています。開示された温室効果ガス排出量が、製品の環境表示の根拠になることもあれば、表示で示した取り組みが、開示の内容と矛盾してはならない場面もあります。開示の基準が整備され、第三者保証が導入されていく流れは、表示の信頼性を支える土台が厚くなることを意味します。
本ページでは、日本のサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)を中心に、国際的な基準であるISSB、EUのCSRD、そして第三者保証の基準を、金融庁や各基準設定主体の公表資料に沿って整理します。制度は変化が速い分野ですので、確認できた事実だけを日付つきで記述します。
制度を読むときは、三つの軸で整理すると混乱しません。一つ目は、どの基準で開示するかという「基準」の軸。二つ目は、どの会社にいつから適用されるかという「時期」の軸。三つ目は、開示された情報を誰がどの水準で確認するかという「保証」の軸です。以下の各節は、この順に沿って構成しています。いずれの軸でも、事実は日付つきで確認し、将来の予定は「方向」として区別して読むことが大切です。
SSBJ基準:公表から、有価証券報告書での義務化まで
サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、2025年3月5日に、サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」、サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」、同第2号「気候関連開示基準」の三つを公表しました。公表の時点では、金融商品取引法に基づく有価証券報告書でどの会社にいつから適用するかは確定しておらず、金融審議会のワーキング・グループで検討されていました。
金融審議会の中間論点整理(2025年7月17日)
金融審議会のワーキング・グループは、2025年7月17日に中間論点整理を公表し、東京証券取引所のプライム市場の上場会社について、株式時価総額に応じた段階的な適用を基本とする考え方を示しました。株式時価総額3兆円以上は2027年3月期、3兆円未満1兆円以上は2028年3月期、1兆円未満5千億円以上は2029年3月期からSSBJ基準の適用を開始することを基本としつつ、5千億円以上1兆円未満の適用時期は、国内外の動向を注視して引き続き検討するとされました。
内閣府令の改正(2026年2月20日)
2026年2月20日には、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和8年内閣府令第5号)が公布・施行されました。金融庁の担当者による解説では、この改正により、平均時価総額が1兆円以上のプライム市場上場会社に対し、SSBJ基準に従って有価証券報告書の「サステナビリティ関連記載事項」(様式の「サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載する事項)を記載することを義務づけたと説明されています。適用対象外の提出会社も、この基準を任意で適用できます。
平均時価総額は、直前事業年度の前事業年度の末日などを起点とする過去5事業年度分の時価総額の平均で判断します。たとえば2027年3月期の有価証券報告書であれば、2022年から2026年までの各年3月末の時価総額を合計して5で割った額です。時価総額1兆円未満5千億円以上の会社への適用は、今後予定される制度整備で対応するとされています。
2026年1月の報告での整理
金融庁が2026年1月8日に公表した報告書では、時価総額1兆円未満5,000億円以上の企業について、2029年3月期からSSBJ基準を適用し、その翌年から第三者保証を導入するという方向が示されたと、監査法人系の解説で紹介されています。内閣府令の対象外となった区分の整理は、今後の制度整備で具体化されます。
第三者保証:いつから、どこまで求められるのか
金融庁の資料は、保証制度の導入を、SSBJ基準の適用の義務化より後に置く考え方を示しています。ワーキング・グループの議論では、EUのサステナビリティ開示制度との関係から、2028年3月期には第三者保証制度を導入することが適当である一方、開示基準の適用開始は、保証制度の導入に先行させるべきだと整理されました。その後の整理では、開示基準の義務化の開始時期の翌年から保証を義務づける方針が示されています。
保証の水準と範囲についても、金融庁の資料に注記があります。保証水準は限定的保証、保証範囲は当初の2年間は、スコープ1・2の温室効果ガス排出量と、ガバナンス及びリスク管理に関する情報とされています。この範囲が段階的に広がるかどうかは、今後の制度整備に左右されます。
保証に使われる国際的な基準
- ISAE 3000(改訂版):過去財務情報の監査・レビュー以外の保証業務に関する国際基準。サステナビリティ報告書の保証で広く使われている
- ISAE 3410:温室効果ガス報告に関する保証業務の国際基準
- ISSA 5000:サステナビリティ保証業務全般を対象として公表された国際基準
- ISO 14064-3:温室効果ガスの妥当性確認・検証に関する国際規格
第三者検証・保証を実際に提供している機関の整理は、第三者検証・保証機関の比較で事実項目として並べています。検証、保証、認証の違いを混同しないことが、依頼先を考える前提になります。
ISSBと、日本の基準の関係
国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、国際的な開示基準を策定する主体です。金融庁の担当者による解説は、ISSBが2024年2月に公表した「法域ガイド」に触れています。このガイドは、各法域がISSB基準と機能的に整合した基準に基づく開示制度を導入するにあたっての指針で、公的説明責任のある企業のすべてまたは大半にISSB基準または整合した基準を適用した状態をもって、ISSB基準が完全に導入された状態と捉え、各法域の導入プロセスを2029年末までに完了することなどを求めています。
日本の中間論点整理は、株式時価総額の合計の7割超を占める1兆円以上のプライム市場上場会社までをSSBJ基準の適用対象とすれば、国全体としてISSBの法域ガイドが言う「完全に導入された状態」が達成されたと言い得ると考えられる、と説明しています。同時に、5千億円以上のプライム上場会社については、外国人株主の保有比率が高いことや、EUでの開示対応を求められる場合があることから、早期に適用の道筋をつけるべきとされました。
EUのCSRDとESRS:オムニバスによる見直し
EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)は、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に基づく開示を求める制度として設計されましたが、対象企業の負担への批判を受け、規制の簡素化を図る「オムニバス」パッケージによる見直しが進みました。複数の法律事務所の解説によれば、2025年12月9日に暫定的な政治合意に至り、報告対象は、従業員が1,000人を超え、純売上高が4億5,000万ユーロを超えるEU企業やグループに絞り込まれるとされています。EU域外のグループについては、従業員数の条件はなく、EU域内の売上高が4億5,000万ユーロを超えることが基準になると解説されています。
改正後の範囲は、2027年1月1日以後に始まる事業年度から適用されると報じられています。ただし、最終的な法的位置づけと適用時期は、EUの官報に掲載された条文で確認する必要があります。日本企業のEU子会社や、EU域内で一定の売上高がある日本企業の場合、自社が対象に入るかどうかは、新しい基準で判断し直すことになります。
日本企業が自社の立ち位置を考える三つの類型
開示制度の影響の受け方は、企業の状況によって大きく三つに分かれます。一つ目は、国内のプライム市場に上場し、SSBJ基準の適用対象になる会社です。この場合は、有価証券報告書での記載と、段階的に導入される第三者保証への備えが中心になります。二つ目は、EU域内に子会社や大きな売上高があり、CSRDの対象になりうる会社です。この場合は、EUの新しい範囲の条文に照らして、自社が対象かどうかを判断し直す必要があります。三つ目は、上場会社やEU企業のサプライヤーとして、取引先から排出量データの提供を求められる会社です。直接の義務はなくても、算定と記録の体制づくりが、取引の前提になっていきます。
有価証券報告書と、表示・開示の整合
有価証券報告書のサステナビリティ関連の記載は、SSBJ基準の適用対象でない会社も、現行の記載事項として行っています。適用対象の会社については、SSBJ基準に従った記載が必須になり、気候関連のリスクと機会、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標といった要素が体系的に求められます。
環境表示の担当者にとって実務上重要なのは、製品や企業のウェブサイトで示す環境の主張が、有価証券報告書やサステナビリティ報告書の記載と矛盾しないかを確認することです。たとえば、報告書では排出削減の目標が未達と書かれているのに、広告では達成済みのような印象を与える表現を使えば、表示の信頼性を損なうだけでなく、景品表示法上の問題を招きかねません。開示と表示の部署が連携し、同じ根拠資料を参照する体制が求められます。体制の作り方は社内体制・資格・キャリアで整理しています。
適用時期を一枚に:自社がどこに位置するかを確認する
ここまでの内容を、時価総額の区分ごとに並べます。区分は、直前の事業年度までの5年平均の時価総額で判断されるため、自社がどの区分に入るかは、決算期ごとに金融庁の定める算定方法で確かめる必要があります。
| 区分(プライム市場の上場会社) | SSBJ基準の適用開始 | 位置づけ | 出典 |
|---|---|---|---|
| 平均時価総額3兆円以上 | 2027年3月期 | 内閣府令で義務化 | 金融庁 中間論点整理、内閣府令の解説 |
| 3兆円未満1兆円以上 | 2028年3月期 | 内閣府令で義務化 | 金融庁 中間論点整理、内閣府令の解説 |
| 1兆円未満5,000億円以上 | 2029年3月期から適用する方向 | 今後の制度整備で対応 | 金融庁 ワーキング・グループ報告(2026年1月8日) |
| 5,000億円未満 | 未定 | 任意適用は可能 | 金融庁の解説 |
2026年10月時点、金融庁の公表資料および解説に基づく。最新情報は一次資料で確認してください。
表は、環境表示の担当者が、自社の開示部門と同じ時間軸で表示の準備を進めるための目安です。開示が義務化される時期に近づくほど、温室効果ガス排出量などの数値は、第三者保証の対象として確からしさを問われるようになります。その数値を表示の根拠として使っている場合には、算定の前提や範囲を表示側でも説明できるよう、早めに開示部門と根拠資料の置き場所をそろえておくことが、手戻りを防ぎます。
また、保証が導入されても、保証されるのは開示された情報の範囲に限られます。広告や商品表示の文言そのものが、保証の対象になるわけではありません。表示の適法性は、引き続き景品表示法や環境表示ガイドラインに照らして、事業者自身が確認する必要があります。
