表示を出す前の審査フロー:四つの関所を置く
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本ページは公表資料にある事実と、体制づくりの一般的な考え方を整理したものです。個別の企業の体制の適否や、求人・資格取得の勧誘を目的とするものではありません。
環境に関する表示は、広告やウェブサイトの担当者が作り、法務部門が確認するという流れが一般的です。しかし、環境表示の場合は、表示の根拠となる数値や試験結果が、研究開発や調達、環境管理の部署に分散していることが多く、通常の広告審査の流れだけでは、根拠と表示のずれに気づきにくくなります。そこで、企画から公開までの間に、四つの関所を置く構成を考えます。
第一の関所:企画の段階で「主張の範囲」を言葉にする
企画担当者は、環境に関する主張を書き出す段階で、対象が製品全体か、特定の工程か、事業活動全体かを明示します。環境省の環境表示ガイドラインが、あいまいな表現を避けること、ライフサイクル全体を考慮することを基本項目に掲げているのは、この範囲の特定が、後の工程すべての前提になるためです。「環境にやさしい」のような言葉を単独で使う案は、この段階で説明文とセットでなければ進めないルールにしておくと、後工程の負担が減ります。
第二の関所:根拠資料を集め、表示と対応づける
表示案ごとに、根拠資料の一覧を作ります。景品表示法の不実証広告規制では、提出資料が客観的に実証された内容であること、表示された効果や性能と資料の内容が適切に対応していることが求められます。そのため、一覧には、資料の名称、作成者、試験や算定の条件、表示のどの部分を裏付けるのかを書きます。根拠が第三者の検証や認証に基づくなら、その機関名と対象範囲も併記します。
第三の関所:法務・コンプライアンスによる確認
法務部門は、景品表示法、環境表示ガイドライン、海外向けの場合はECGT指令などの規律に照らして、表示と根拠の対応を確認します。表現の確認では、広告審査のツールを併用することもできますが、そのツールの出力は、最終的な判断ではなく、人が確認する前段階のものとして使います。ツールの特徴は広告審査・ESGツールの比較で整理しています。
第四の関所:承認と記録の保管
承認者は、表示案、根拠資料の一覧、法務の確認結果をそろえて承認し、その記録を保管します。表示が公開された後で、行政から根拠資料の提出を求められた場合に、速やかに対応できる状態にしておくためです。表示を修正または取り下げる場合の判断基準と連絡先も、あらかじめ決めておきます。
管理上の措置に関する指針:事業者に求められている体制
景品表示法は、不当な景品類や表示を防止するために、事業者が必要な体制の整備その他の措置を講じることを求めています。2014年6月に成立した法改正で、この措置を講じる義務が事業者に課され、それを受けて、平成26年11月14日の内閣府告示第276号として「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」が定められました。その後、平成28年4月1日の内閣府告示第125号による改正を経ており、2022年には指針の一部改正案への意見募集の結果が、6月29日に消費者庁から公示されています。
指針は、措置の具体的な内容について、事業者の規模や業態、取り扱う商品やサービスの内容などに応じて、各事業者が個別具体的に判断すべきものと述べています。したがって、一律の正解となる体制はありません。上で示した四つの関所は、指針の考え方を環境表示の場面に落とし込んだ一例であり、自社の規模に合わせて、担当者の置き方や確認の深さを調整する必要があります。
体制づくりで押さえたい項目の例
- 表示に関する方針と、遵守すべき法令・ガイドラインを社内で明確にし、関係者に周知する
- 表示の内容と根拠資料について、確認する担当者と手順を決める
- 根拠資料を、後から確認できる形で整理し、保管する
- 不適切な表示が見つかった場合の、報告、停止、修正、公表の判断手順を決める
- グループ会社や広告代理店、制作会社にも、同じ基準を伝える
環境表示ガイドラインの検討会には、日本広告審査機構(JARO)、消費者庁の表示対策課、経済産業省、農林水産省の担当者などがオブザーバーとして参加していたことが、環境省の資料に記されています。表示の審査は、社内で完結せず、業界団体や行政の公表資料を参照しながら進める性格のものです。
研修と周知の進め方
体制を作っても、表示を作る現場に考え方が届かなければ意味がありません。環境省のガイドラインは、最初に確認してほしい事項をイラストを用いて分かりやすく示す構成になっており、社内研修の教材として使いやすい形です。研修では、5つの基本項目を、自社が実際に使っている表示文に当てはめる演習を取り入れると、理解が定着します。たとえば、あいまいな表現が使われていないか、説明文が表示の近くにあるか、比較表現にライフサイクルアセスメントなどの根拠があるか、といった点を、実際の表示案で確かめる形式です。
周知の対象は、広報や宣伝の担当者だけではありません。営業資料を作る営業部門、採用ページや投資家向け資料を作る部門、ウェブサイトの運用を委託している外部の事業者にも、同じ基準を共有します。環境表示ガイドラインは、商品の表示だけでなく、事業活動やイメージ広告、企業姿勢に関する表示にも適用範囲が及ぶとしているためです。
学びの入口:検定と、専門家の資格制度
環境表示を担当する人の知識は、環境、法務、広告の三つの領域にまたがります。単独の資格で全体をカバーすることはできないため、目的に応じて学びを組み合わせるのが現実的です。
- 環境社会検定試験(eco検定):東京商工会議所が主催する、環境問題の基礎知識を問う検定。特別な受験資格はなく、誰でも受験できると紹介されている。環境の基礎用語や制度を押さえる入口になる。日程と方式は公式サイトで確認する
- 法務系の検定:ビジネスで使う法律の基礎を学ぶ検定として、商工会議所などが実施するものがある。景品表示法を含む消費者関連の法令を、実務の視点で学ぶ入口になる
- サステナビリティ開示・保証に関する認定者制度:EY新日本有限責任監査法人が、2022年7月から「サステナビリティ開示・保証業務認定者制度」を運営し、2026年6月末時点で3,679名を認定したと発表している。監査法人が自ら育成する人材の制度の一例
資格や検定は、知識の入口を作るものであり、表示の適法性を判断する権限や能力を保証するものではありません。個別の表示の判断は、法令原文と専門家(弁護士など)の確認を前提にしてください。
サステナビリティ関連職の種類:公表資料から見える仕事の姿
環境表示や開示に関わる仕事は、企業の内部と外部の双方にあります。公式サイトや公開資料で確認できる範囲で、仕事の種類を整理します。
企業の内部にある仕事
事業会社のサステナビリティ推進部門、法務・コンプライアンス部門、広報・マーケティング部門は、環境表示の審査に直接関わります。有価証券報告書でSSBJ基準に従った記載が義務づけられる会社では、開示を担う経理・財務部門や、IR部門との連携も増えます。排出量の算定を担う環境管理部門や、調達部門でサプライヤーとの連携を進める担当者も、表示の根拠となる数値を支える役割です。
企業の外部にある仕事
外部には、検証・保証機関の審査員や保証業務の担当者、監査法人系のサステナビリティ会社のコンサルタント、法律事務所の弁護士、広告審査や算定のツールを提供する会社の担当者などがあります。第三者検証・保証機関の比較では、KPMGあずさサステナビリティが2025年7月に名古屋事務所を開設したことなど、公式サイトで確認できた拠点や取り組みを掲載しています。
職種ごとの仕事内容や求められる知識は、厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」などの公的な情報でも確認できます。求人の件数や条件は日々変わるため、本サイトでは数値を掲載していません。実際の募集は、各社の採用ページや公的な職業紹介の窓口でご確認ください。
役割分担を表にする:誰が何に責任を持つのか
審査フローが機能するかどうかは、各段階で誰が何に責任を持つかが明確かどうかで決まります。次の表は、自社の規模に応じて調整するための出発点です。部署名は一例であり、実際の組織に合わせて読み替えてください。
| 段階 | 主な担当 | 確認する内容 | 残す記録 |
|---|---|---|---|
| 企画 | 事業部門・広報 | 主張の対象と範囲、使う言葉、説明文の有無 | 表示案、主張の範囲を示すメモ |
| 根拠資料 | 研究開発・環境管理・調達 | 試験や算定の条件、第三者検証・認証の有無と対象範囲 | 根拠資料の一覧、検証・認証の書類 |
| 法務確認 | 法務・コンプライアンス | 景品表示法、環境表示ガイドライン、海外の規律との整合 | 確認結果、修正の指示 |
| 承認・公開 | 責任者・広報 | 表示案、根拠、確認結果がそろっているか | 承認の記録、公開日と媒体 |
| 公開後の見直し | サステナビリティ推進・法務 | 制度改正、根拠資料の更新、苦情や問い合わせ | 見直しの記録、修正の履歴 |
2026年10月時点の制度に基づく一般的な整理。自社の体制は、法令原文と専門家の確認を踏まえて設計してください。
よくある行き違いの型
実務では、いくつかの行き違いが繰り返し起こります。一つ目は、根拠資料の範囲と表示の範囲がずれることです。たとえば、特定の製品ラインの算定結果を、ブランド全体の表示に使ってしまうケースです。二つ目は、更新の漏れです。制度や算定の前提が変わっても、すでに公開した表示が見直されないまま残ります。三つ目は、委託先との認識の差です。広告代理店や制作会社が、独自の言い回しで環境表示を作成し、社内の審査を通らずに公開されてしまいます。
これらは、特定の企業の事例ではなく、審査フローの設計上の弱点として一般的に指摘できるものです。四つの関所と役割分担の表を整えるだけでなく、公開後の見直しを定期的に行う運用を組み込むことで、行き違いの多くは減らせます。
海外向けの表示と、制度の見直しの運用
欧州の消費者に向けた表示を行う場合は、2026年9月27日から適用が始まったECGT指令と、各国の国内法の確認が必要です。認証制度に基づかない持続可能性ラベルや、一般的な環境主張、オフセットのみを根拠にした中立表示は、EUで規律の対象になっています。国内向けと海外向けで表示の基準が異なることを前提に、審査フローの中に市場別の確認欄を設けておくと、担当者が迷いません。各国の規律の違いはグリーンウォッシュ規制の全体像で整理しています。
こうした確認は、年に一度の見直しでは追いつきません。環境省のガイドラインが2026年3月に改定され、EUの規律が同年9月に適用されるなど、制度は短い間隔で動いています。見直しの担当と頻度を決め、公表資料の更新を定期的に点検する運用が、体制を維持する鍵になります。
