ニュースの概要
日本企業が、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量(スコープ3)について、把握から削減、相殺までの流れを一貫して見える化し、改ざんしにくい形で証明する「鑑定証明システム」の特許を取得したと発表した。背景にあるのは、環境情報が企業の自己申告に頼りがちで、削減したという実績を第三者が確かめにくい現状だ。同じ環境価値が二重に数えられたり、実態の伴わない環境配慮がうたわれたりする、いわゆるグリーンウォッシュの懸念も根強い。今回の特許は、排出データと環境価値の流れをたどれるようにすることで、こうした不信を減らす狙いがあるとみられる。
引用元: スコープ3排出量から削減・相殺までを証明する鑑定証明システムの新特許(Excite News)
分析・見解
スコープ3は排出量の大半を占めるのに、数字が最も曖昧
スコープ3とは、自社の外で生じる排出のことだ。原材料の調達、輸送、製品の使用、廃棄までを含む。多くの製造業では、企業全体の排出量の7割から9割をここが占めるとされる。つまり、一番大きな数字が、一番つかみにくい場所にある。
取引先ごとに計算方法がばらつき、業界平均の係数(=排出量を見積もるための標準的な換算値)で埋めている例も多い。この状態では、努力して減らしても数字に表れにくい。逆に、何もしなくても見かけ上減ることもある。把握から削減、相殺までを一本の線でつなぐという発想は、この弱点を正面から突いている。
改ざんしにくい記録と、中身が正しいことは別の話
ただし、改ざんしにくいことと、正しいことは同じではない。ブロックチェーンのような仕組みは、記録した後に書き換えられないことを保証する。一方で、最初に入力された数字が正しいかまでは保証しない。「ごみを入れればごみが出る」という古い格言のとおりだ。
そこで重みを持つのが「鑑定」という言葉だろう。誰が、どの根拠で、数値を確かめたのか。電力の請求書や運送の記録といった裏づけ資料と結びつけられるか。ここが弱いと、立派な台帳に曖昧な数字が並ぶだけになる。技術の新しさより、入口のデータ検証の設計が価値を決める。
二重計上を防ぐ鍵は、誰がいつ使い切ったかの記録
相殺の側にも課題がある。2023年には、森林保全のクレジットの多くが実質的な削減につながっていない可能性を指摘する報道が出て、市場に衝撃を与えた。同じ削減分を複数の主体が自分の成果として数える二重計上も、以前から指摘されてきた。
対策の基本は、クレジットや環境価値に固有の番号を振り、発行から使用済みまでを一か所で追えるようにすることだ。銀行口座のように「誰の手元にあり、いつ使い切られたか」が分かれば、二重の主張は難しくなる。今回の特許が狙うのは、この追跡の部分だと読める。
特許は標準ではない。普及の条件は第三者との接続
最後に、特許の位置づけを整理したい。特許は技術の独占権であり、業界標準ではない。標準になるには、算定基準を定める国際的な枠組みや、監査法人などの第三者とつながることが要る。日本でもサステナビリティ開示の基準(SSBJ基準)で、スコープ3の開示が求められていく流れにある。需要は確実にある。
だが、各社が別々の証明方式を持てば、取引先は複数の方式への対応に追われかねない。今後は、囲い込みよりも、互いに読み合える仕組みを選べるかが分かれ目になる。
ビジネスへの影響
まず自社の数字の「出どころ」を棚卸しする
新しい仕組みを待つ前に、できることがある。スコープ3の数字のうち、実測値と推計値がそれぞれ何割かを分けて把握することだ。多くの企業では推計値が大半を占める。まず排出量の大きい上位の取引先から、実測に切り替える優先順位を決めたい。
仕組みの導入はその後でよい。整った入力があってこそ、証明の仕組みは効果を発揮するからだ。調達部門と環境部門が別々に動いている会社では、担当をつなぐ作業から始めるのが現実的である。
導入を検討するときに確認したい三つの質問
一つ目は、入力データの裏づけ資料をどこまで紐づけられるかだ。請求書や運行記録まで結べるなら、証明の信頼度は大きく上がる。二つ目は、第三者保証を行う機関がそのまま使える形式かどうかだ。社内で完結する証明は、取引先や投資家には響きにくい。
三つ目は、サービスをやめたときに記録を取り出し、他へ移せるかである。排出記録は長く保存するものだ。特定の事業者に閉じた形式だと、将来の乗り換えが難しくなる。あわせて、取引先の中小企業に過度な入力負担を強いないかも見ておきたい。
環境をうたう表現は、証拠を先にそろえてから
広告、採用、投資家向け資料で「実質ゼロ」などと表現する場合、説明できる根拠が欠かせない。何を、いつ、どの範囲で減らし、どこから相殺したのか。これに即答できない表現は、控えめに言い換えるほうが安全だ。
証明の仕組みは、強い表現を許す免罪符ではない。控えめでも正確に語るための土台と考えるのがよい。
